アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]

「いいこだな、お前」
「……そんなことないです」
「大学行って、変な男に引っかかるなよ」

はは、と笑いながら私に背を向けた千歳さんを見て、何かが胸の中で抑えきれなくなってしまった。

このまま何もできないの? 私はずっとトイレ掃除をしているだけ?

私だってもっとあなたと話したいし、下の名前で呼ばれたい。

「……じゃあ、引っ掛けてください、千歳さん」
「……え?」
「私のこと、引っ掛けてください」
「な、なにごとだ……」

千歳さんは、おぬし正気か……と、動揺し過ぎてなぜか侍の様な言葉になっていた。
それでも私は引かなかった。もう引けなかった。どうせ自滅決定なんだ、どうせなら押してしまえ、という完全に自爆モードになっていたんだ。

「千歳さん、かっこいいです。堪らないです。たちの悪い酔っ払いからバイトの子庇ってる時とかかっこよすぎて涙出そうになります……」
「え、ありがとうございます……」
「全然話せなくて、ずっと悔しかったです……いつもお姉さんに囲まれてるから」
「なんかそれ聞こえ悪いね」

私は、あなたが好きです。
美人じゃないし、頭良くないし、おっぱいも大きくないし、だから、私の武器は若さと勢いしかないよ。何の計算もなしに、体当たりで告白することしかできない。そりゃ恥ずかしいよ、今すぐ逃げたいよ、今後気まずくなることを予想したら苦しいよ。
でももう、抑えきれなかったんだよ。どうしたらいいのかわからなかったんだ。

ごめんね千歳さん、困らせてごめんなさい。トイレ掃除しかちゃんとできなくてごめんなさい。
< 89 / 119 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop