アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]
「……折戸さん、折戸さんは可愛いし、大学行ったら良い出会いが沢山あるよ」
千歳さんは、困ったような顔で笑って、そう諭した。
……そうだよね、そうやって普通は逃げるよね。流したくもなるよね。こんな子供に告白されたって。
だって私、まだ何も知らないもん。苦い経験も、辛い経験も悩みも、責任に押しつぶされそうになったこともまだまだ少ない。
人生の経験値が違い過ぎるから、千歳さんが悩んでいる時にかけてあげる言葉なんて、きっと見つけられない。
「……やっぱり五歳差って、大きいですよね」
「……まあ、うん……、さすがに女子高生と付き合うとかは、考えられないかな。折戸さんはこれから大学生活を始めるよね。大学生活って、折戸さんが思っている以上に貴重だから、その責任を背負う覚悟はできないよ」
ごめんね、と謝る千歳さんを見たら、ズキズキと胸が痛んだ。
ああ、でもやっぱり私、この人が好きだ。
「私は、大学生活の四年を全部あなたにあげたって、後悔しないです……っ」
好きです、千歳さん。好きです。
「もらえる分だけ、もらってください……、好きです、千歳さん」
一ヶ月でも、一週間でもいいよ。あなたと一緒にいられる時間が欲しい。
まさかこんな言葉が自分の口から出るなんて、思ってもみなかった。
緊張と羞恥で泣きそうになりながら言葉にすると、千歳さんは更に困った顔をしていた。
「……新女子大生をフライングゲットとか……いやいやまさかな……」
「揺れてるならこっちに傾いてください」
「……俺社会人になったらあんまり構ってあげられないよ?」
「大丈夫です」
「部屋汚いし、しかも出不精だからあんまり外連れて行ってあげられないよ? いいの?」
「私もインドアです、問題ないです」
きっぱりそう言い張ると、彼はさっきとは少し違う困った笑い方をした。
「……じゃあ」
「じゃあ?」
「じゃあ……とりあえず閉め作業を……」
「お疲れ様でした」
「待て待て、分かった、怒るな」
流されたことに怒って帰ろうとした腕を掴まれて、私はぐっと千歳さんに近づいた。