フキゲン・ハートビート
ああ、またふりだしに戻ってしまったよ。
もう少しだけ待ってみようか。
それとももう、ほかを当たろうか。
いや、おとなしく帰宅して、ひとりで闘うしかない?
うう……どうしよう。
「――おい」
再び絶望に飲みこまれそうになったそのとき、ふいに背後から声をかけられた。
「なにしてんの?」
「あ……」
ふり返った先にいたのは、色白のネコ顔。
怪訝そうにこっちを見つめている。
案の定ものすごく嫌そうな顔をされてはいるのだけど、いまのあたしにとってはそれすらも神様のようにしか見えなかった。
なんなら後光が差しているのさえ見える。
「お、おか……おかえりなさい!!」
本当に会えてよかった。
このまま途方に暮れるところだった。
そんな気持ちでいっぱいになった結果、そんな、ワケのわからないことを口走ってしまった。
「……いや」
寛人くんは一瞬なにか言いたげな顔をしたけど、
「うん、ただいま」
と、小さい声で言った。
「待ってた……。ピンポン、無視されてるのかと思った。出かけてたんだね……!」
「洸介さんとスタジオ入ったあとメシ食ってきた」
コミュ力の低い者どうしでゴハンって、なにを話すんだろう。
なんて、失礼すぎることをちょっと思ったけど、怒られそうだから言わなかった。
それにいまはそれどころじゃない。
「なんか用?」
かったるそうな顔で、かったるそうに言った寛人くんの両手を、思わず握りしめる。
目の前にある顔がぎょっとした。
それにしても、はじめて触ったその指先は思ったよりもうんとゴツゴツしていて、こんなに中性的な見た目なのになあ、なんてよけいなことを思わずにはいられない。
「半田寛人くん。ゴキブリは平気ですか……!?」
「……は?」