フキゲン・ハートビート


「えっ」

「あんの? さすがに素手で退治するのは無理」

「あっ……? え、あ、な、ない、です!」

「ふ。ないのかよ」


寛人くんがあきれたように笑う。

その、とても形のいいくちびるのあいだから、小さく吐息が漏れだした。


「じゃ、まず、買いもん」

「……あのう、すみません。まことに恐れいりますが、財布が手元にございません……」

「もう、いいよ、立て替えるから」


飽き飽きしたように言いながらくるりと踵を返した寛人くんの背中を、信じられない気持ちで眺める。


ああ、やっぱりちょっと線が細いな。

ちゃんと食べていないからだな。


それでも、紺色のシャツの上から浮きでている肩甲骨のラインだけが、なんだか妙に男子っぽい。

あのころ身にまとっていた分厚い学生服の上からじゃどうにもわからなかった形だ。


「早くしろよ。ホームセンター閉まるだろ」


ちらっとこっちを向いた、その流し目とか。

なんか、体の細さもそうだけど、半田寛人という男はかなり美しい見た目をしているんじゃないかって、いまさらながらしみじみと思った。


たしかに顔の造りはものすごくアキ先輩に似ている。

でも、それ以外のすべては、ぜんぜん違っている。


「……うんっ」


色白で、細身で、中性的。

しなやかで、他を寄せつけようとしない雰囲気の半田寛人にはどこか陰みたいなものがあって、かっこいいというより、すごく色っぽい。

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