フキゲン・ハートビート


本当に閉店ぎりぎり、滑りこみだった。

G退治グッズを3000円分くらい買いこんで、そのまま寛人くんの運転する車で、我が家に帰ってきた。


……の、だけど。


「まあ、いなくなってるとは思ってた」


モノが散乱した部屋のド真ん中。

殺虫剤を右手に持ちながらそこに立っている寛人くんが、ため息まじりにそうこぼした。


そう、結論から言うと、Gはいなくなっていた。


正確には“いなくなった”わけじゃない。

きっとこの部屋のどこかには潜んでいて、うまくあたしたちの視界から消え失せているだけだ。


この部屋に、ヤツは、まだいる。


そう思うだけで鳥肌が止まらない。

ついでに涙も出てくる。

キモすぎて泣けるという体験は、生まれてこのかた一度もしたことがなかった。


「つーか部屋片付けたほうがいいんじゃね。これじゃゴキも隠れたい放題だろ」

「……だよね。片付けなきゃイカンなーとはつねづね思ってます」

「おれ、この部屋で生活できる気しねーもん」


たしかに、キミのウチはモデルルームみたいだったものね。

基本的にモノは少ないのに、置いてあるものすべてがいちいちお洒落で、そのうえ掃除は行き届いていて、どこもかしこもキレイだった。

あそこにGはきっといないだろう。


「……数日のあいだ、お世話になるわけには」

「却下」

「で……ですよね~!」


なにさ。ちょっと言ってみただけじゃんか。

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