フキゲン・ハートビート
尋常じゃないスピードで逃げまどう黒い影、
それを的確かつ容赦なく追う半田寛人。
その闘いはたった数秒で終わったのかもしれない。
それでも、体感時間はとても長く、とうとう力尽きたGが床で果てる瞬間まで、まるでスローモーションみたいな速度で映像が流れていた。
「……死んだな」
寛人くんの低い声が、ゆっくり動いていた世界を通常の再生スピードに戻した。
「……よ、よかったー!」
「なんかすげー劇的な幕引き……」
「ありがとう! ほんっとうに、ありがとう……!」
言い訳をさせてもらえるなら、これは、完全に無意識のうちだったのだ。
うれしくて、安心して、
目の前の男はいま、神様以外の何者でもなくて。
気づけばあたしは、その細っこい首に腕をまわしてしまっていた。
「……あ」
3秒後には我に返っていた。
ヤバイことしたって思って、そしたらうまく体が動かなくて、結果的に抱きついたまま硬直することになってしまう。
右手に殺虫剤を持ったままの寛人くんもコチンとかたまっている。