フキゲン・ハートビート


「あ! いや! これはその!」

「……いいから離れてくんね」

「ごめん!」


するりと魔法を解かれたみたい。

とたん、動くようになった体をパッと離すと、そこには眉間に皺の寄った美しい顔があって。


……そこまで嫌な顔をしなくてもいいじゃないか。

たしかにチョット本気でゴメンって感じだけど。


それでも、


「盛り上がりすぎ」


と、あきれたみたいに言ったあと、


「……でもまあ、よかったな。これできょうは安眠じゃん」


と、彼は続けてくれたのだった。

どこか笑みを含んだ声だった。


「本当に、すべてあなた様のおかげです……」

「そうだな」

「今度ビールおごります」

「1杯?」

「飲み放題!」

「だよな」


Gと寝食を共にすることに比べたら飲み放題なんか安いもんだ。

疲れた顔で首をひねる寛人くんに向かって手を合わせる。


「なにしてんの?」


なにって、拝んでいるに決まっている。


死骸すら見られない、さわれないあたしの様子を察したのか、寛人くんは黙って処理までもをしてくれた。

ティッシュでつかみ、ギュッとつぶしたあとで、ホームセンターのビニール袋に入れ、かた結び。

彼はそのすべてを平気な顔でしていた。

よくできるなって思ったけど、やっていただいているほうの立場なので、よけいなことは言わないでおく。

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