フキゲン・ハートビート
右手にゴハンの入った紙袋、左手に死骸の入ったビニール袋をぶら下げている寛人くんは、そのアイテムたちにとても似合わない、高そうなローファーを足元に装着する。
ローファーなんて女子高生が履くものだとばかり思っていたけど、こうして見るとお洒落でかっこいいんだなあ。
「じゃあ」
横顔だけ見せてそう言った彼が、ドアノブに手をかけた。
「うん、おやすみなさい。本当にありがとう」
「どういたしまして。コイツ一匹だけだといいな」
本当にいちいち一言がよけいだな。
いろいろとお世話になりっぱなしだけど、それにはモチロン感謝しているけど、やっぱりいい性格をしていらっしゃるとは節々で思う。
やがて、骨っぽい背中越しに開け放たれたドア。
そのむこうに、別の人影が見えた。
マズイっ、と咄嗟に思ったのはたぶん本能レベルだ。
それが誰なのかなんて、さすがに一瞬ではわからなかった。
はっきりとは見えなかったし。
でも、なんかヤバイ、って。
心が警報を鳴らしまくっていたのは、事実だ。
「――蒼依。この男、誰だよ?」
嫌な予感ほど当たる現象、本当に、参る。
「大和……っ!」
ドアを開けたすぐその先で、なぜか怒った顔を隠そうともしていなかったのは、
ほかでもない、かつてあたしをボロ雑巾のように捨てやがった、最低のクソヤロウだった。