フキゲン・ハートビート


大和はけっこう力は強いほうだと思う。
体格もいいし。

そんな男の力を、ただでさえ華奢な寛人くんが……押さえこんでいるというの?


「な……んだよ、おまえ、蒼依のなんなんだよ。新しい男か?」


興奮したような大和の太い声が響く。

そういえば、怒ると決まって大声を出す人だった。

あたしはいつもそれがこわくて、こんなふうに怒鳴られるたびに委縮して、怯えていたんだ。


「だったらなんだよ。捨てた女が誰とどこでなにしてようと、アンタに関係ないだろ。ダセェからギャンギャンわめくのやめな」


それでも寛人くんは微塵も怯んでいなかった。

あの淡々としたしゃべり方で、どこか興味なさげに言葉をならべる彼に、大和は顔を真っ赤にしている。


「ふ……っざけんな! おまえみたいなぽっと出の男に、俺たちのなにがわかるんだよ!」

「わかんねーけど、アンタがクソ野郎なことと、蒼依が傷つけられたことはわかった。だから“終わった男”はとりあえず帰ってくんね? 迷惑」


……ああ、もしかして、かばって、くれているのかもしれない。

こんなクソヤロウに引っかかった、こんなクソ女のこと、寛人くんはいま、守ってくれているのかもしれない。


「……ッ蒼依は俺のモノなんだよっ……!」


「コイツはモノじゃねーよ。本当に好きなら、傷つけんな。こんなふうに泣かせんな。アンタのは愛情じゃない、執着だろ。自分でもわかってんだろ。

……帰れ。もう二度と、この女には近づかないって誓えよ」

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