フキゲン・ハートビート


落ち着きはらった低い声がそう言ったところまでは、聞いていた。


でもそのあとのことはよくわからない。

とにかくあたしはもう立っていられなくて、その場にうずくまって泣きじゃくるしかなかったのだ。


自分が情けなくて、恥ずかしくて、しょうもなくて。

それでも、こんな人間をかばってくれたことが、うれしくて。


「……大丈夫か」


やがて降ってきた声は、あまりに優しすぎて、いよいよ涙が止まらなくなってしまう。


寛人くんがしゃがみ込むのがわかった。

でも、泣き顔を見られるのが嫌で、思わず逃げるようにぎゅっとうつむいた。
ヤな態度だ。


「部外者がしゃしゃり出て悪かったな。……でもなんか、腹立って、見てらんなくて」


泣きながら首を横に振った。

そっちが謝ることなんかはひとつもない。
謝らなきゃいけないのはあたしのほうだ。

でも、喉から出てくるのは嗚咽ばかりで、うまく声が出せない。


「念のため、防犯ブザーとか、スタンガンみたいなの、持ち歩いとけよ。ああいうのはなにするかわかんねーからな」


いいな、
と、念を押すように言った寛人くんが、小さくため息をついた。


「……なんであんな男に引っかかったんだよ」


それはね、自分でも思うよ。

何度だって思ってきたことだよ。

新奈にもさんざん言われてきた。

あたしだって、できることならなかったことにしたいくらいだよ。

大和とつきあう前の自分に会いに行って、なにがなんでも阻止したい。


「……ごめんなさい……っ」

「おれに謝られても」

「だって、また迷惑かけた……」

「もう慣れたわ」

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