フキゲン・ハートビート
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6月の末、半年以上ぶりに実家に帰った。


東京から日本列島の真ん中あたりまで、新幹線を使っておよそ2時間。

この距離が億劫で普段なかなか帰らないのだけど、今年のお正月に選んだ振袖の仕立てがやっと終わったらしく、写真撮影をするから帰ってこいとの通達が、お母さんからあったのである。


いわゆる、成人式の前撮りというやつだ。



「――あー疲れたぁ!」


振袖ってはじめて着たけど、死ぬほど重たくて苦しいんだな。

あんなので成人式に出ないといけないのか。


もともと、動きにくい和服があまり好きではないのだ。
浴衣を着たのだって小学校低学年くらいまでしか記憶がない。


ただの写真撮影にすっかりヘトヘトになり、リビングで愛猫のマロと戯れている時間になってやっと、あー地元に帰ってきたなあ、と実感する。


「マロ~蒼依お姉ちゃんが帰ってきたぞ~」


細くて黒い体に頬をすり寄せると、マロはものすごく不満げにニャアと鳴いた。


「蒼依、あんまりしつこくすると引っかかれるよ」

「シツコイってなにさ。求愛してるだけなのに!」


ねー、と言ってみても、マロは完全無視。
いつものことだ。

そんなあたしたちの様子を見ているお母さんが苦笑した。


「マロは孤高の美猫なんだから、あんたなんか相手にしないよ」


ココーのビネコだって。
笑っちゃう。


でも、たしかにマロは文句のつけようがないほどに美しい黒猫だ。

5年前にペットショップでお母さんが一目惚れして、突然ウチにやってきたのが、この子だった。

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