フキゲン・ハートビート


……寛人くんは、どんなだったかなあ。


記憶に残っている顔は、やっぱり不機嫌そうで。

近寄りがたいオーラをバンバンに出していて。


そういうのを全部ステージの上に連れていってしまっている半田寛人は、教室で見るのとまったく同じで、なんか嫌だなあ、と思いながら見ていたような気もする。


でも、やっぱり、どこか、なにかが、圧倒的に違っていて。

白いライトを全身に浴びながらステージのいちばんうしろで黙々とビートを刻み続ける寛人くんのことを、あたしは教室にいる同級生ではなく、どこかでたしかに遠い存在だとも感じていたんだ。



――もういちど、聴いてみたい。


散らかった床をそのままに、薄っぺらい円盤を抱え、オーディオのあるリビングへ向かった。

ついでになんとなく、中学の卒業アルバムも脇に携えた。


大きな足音を立てながらやってきたあたしに、マロが驚いてどこかへ行ってしまった。

さっきから驚かせてばかりだ。ごめんよ。


「ねーお母さん、“あまいたまごやき”ってバンド知ってる?」

「なぁに、突然。知ってるに決まってるわよう」


オーディオにCDをセットしながら訊ねると、お母さんは立ったままクッキーを一枚つまんで答えた。

どうやらこれから洗濯物を干しに行くらしい。


「だってアレじゃない? あんたと同じクラスだった子がいるでしょう」

「そうそう! よく知ってるね!」

「そりゃあね」


ちょっと得意げにお母さんが笑ったところで、スピーカーから音楽が流れだした。


いまよりももう少しギャンギャンしている、いい意味でうるさくて、とがったような音。

音楽にはまったく詳しくなくて恐縮だけど、なんか、そんな感じがする。


すべての音の自己主張が激しくて、若々しいなあ。

……ドラムも、うるさくて、いいなあ。

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