フキゲン・ハートビート
「こないだ実家帰ってさー、そのときにウチのネコ見て、なんか寛人くんに似てるなって思ったんだよね。そしたら卒アル見たくなっちゃって、いろいろ思い出してたんだよ」
そう、思い出したんだ。
すっかり忘れてしまっていた、あの雨の日のことを。
「傘。……借りたまんまだよね?」
あたしがそう言うなり、彼は驚いたようにこっちを見た。
ひょっとしたら覚えてくれているのかもって、なんとなく、直感的に思った。
「あの黒い傘、まだウチにあるんだよ。やばくない?」
「……置いとくようなもんじゃないだろ」
「お母さんがずっと置いてるんだもん。他人様に借りたもの勝手に捨てられないって」
べつにいいのに、
と、薄いくちびるをとがらせている横顔は、あの放課後からひとつも変わっていない気がした。
「ねえ。あのとき、本当にありがとう。おかげで濡れずに帰れた」
「それはよかった」
「でもさ、翌日の態度はナシだと思うよ! 人がせっかくお礼言おうと思ってんのにシカトこいてさ~」
「ウルセェのに絡まれると厄介だろ」
ウルセェのって、なんだよ。
本当にヤなやつだな。
でも本当はスゴイいいやつだってこと、最近は知ってしまっているから、困っているのだけど。