フキゲン・ハートビート


途中、スーパーに寄っていろいろ買いこんでいたら、あのモデルルームみたいな部屋に到着したのは夜の8時過ぎになってしまった。


「こんばんはぁ」


玄関先で声を出す。


下のオートロックは、インターホンを押すと同時に解除された。

たぶん寛人くんが解除してくれた、で間違いないと思う。

応答は、なかったけど。


そしていまも、なんの返事もない。


「寛人くん? お邪魔しますね……?」


こうも静かだとちょっと不安になるんですが。


パンプスを脱ぎ、丁寧にそろえると、明かりのついているリビングへ向かった。

明かりがついているということは、いるということだよね?

オートロックも解除してくれたし。


……まあ、応答は、なかったけど。


それでもドアのむこう、リビングに、ちゃんと彼はいた。

ただ、その細い体をソファ横たえ、右手で顔を覆うようにしているものだから、眠りこけているのかとは思った。


「あのう、もしもし。お邪魔してますよ」

「……うん、知ってる」


腕の下からちらりとつり目がのぞく。

とりあえず、起きてはいるっぽい。


普段から真っ白な顔をしているけど、きょうはそれがいっそう白く見えて、ぞくっとした。


「ねえ、けっこう体調悪い感じ? ゴハン食べれそう?」

「食べれるから早くつくって」


げ、態度わるっ。


早くつくって、
って、あんたはあたしのこと家政婦かなんかだと思っていやがるのか。


でも、ゴハンつくるって言い出したのはあたしのほうだし、しょうがないか。

それに、本当にけっこう、体調が悪いのかもしれない。

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