フキゲン・ハートビート


今夜のメニューはきゅうりのショウガ漬けと、豚の冷しゃぶ。

冷しゃぶには大根おろしを添えるつもりだ。


いろいろ調べて、夏バテに効くようなメニューにした。


「ねえ、寛人くん。こないださあ、誕生日のメールありがとうね。返事忘れててごめんね」


キッチンからソファまで届くよう、少し大きめの声を出す。


「やっとハタチになったからさ、ちょっとお酒も飲んじゃったよ」


(本当はチョットどころの騒ぎではないけれど)


それでも、寛人くんはなにも答えなかった。


「……あ。ねえ、どうしてあたしの誕生日知ってたの?」

「ニイナが、バーベキューのときわざわざ言いに来た」

「あ~、ナルホドね、新奈が!」


たしかに、新奈ならやりかねない。

それで、素直にメールをくれる寛人くんのほうが、ぜんぜん意外だ。


「ねえ、寛人くん」

「……うるせ」

「は、」

「返事すんのだりい」


なんだって。

人にメシをつくらせておいて、なんだ、その言いぐさは。


ダリィって、

あたしとしゃべるのダリィってことか。


最近はせっかく仲良くなれてきたと思っていたのに、ほんっと、ふとした瞬間に最高にヤなやつだな。


「ああそうですか。しつこくしゃべりかけてスミマセンね」


……そんでこれもシカトか!


いいもんね。

ゴハンつくって食べたらとっとと帰ってやる。

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