フキゲン・ハートビート
静かな時間が続いた。
テレビとか、音楽とか、つけないのかな。
静かすぎて耳がツンとする。
響いているのはトントンとショウガを刻む音だけ。
その規則的な音の合間に、ふと、ゼェという苦しそうな吐息が聞こえた。
「……え?」
思わず手を止める。
ゼェ、ゼェ。
……うん、やっぱり聞こえる。
ちょっと、ウソでしょ、なんてこった!
「寛人くん、熱計ろう!?」
言いながら、なおもソファに横たわっている彼のもとへ向かった。
苦しそうな吐息はやっぱりこの男ものだった。
胸が上下に大きく動いている。
「いいよ、うぜー……」
「よくないよ! ちょっとオデコ貸して!」
強引に触れたその額は、すでに火傷してしまうんじゃないかというほどに、熱くて。
「ちょっと、これぜったい熱あるよ! どうしよう、病院……もう閉まってるよね。夜間病院、どこか近くにないかな……」
「いいから。たいしたことねーし、寝てたら治る」
「治るわけないでしょ! 風邪もこじらせたらこわいんだよ。あんたプロのミュージシャンでしょ。いろいろスケジュールとかあるんじゃないの?」
「あー、うるせえ……」
「うるさくていいから! とにかく熱を! 計れ!」
ごろりと、あたしに背を向けるように寝がえりをうった寛人くんは、か細い声でダメ押しのウゼェをつぶやいた。
それでもその右腕はゆるゆると伸びていき、やがてソファの隣にあった棚のなかから器用に体温計を取りだす。
「あー頭いてー……」
わかるよ。
熱が出ると頭が少し揺れるだけでも死ぬほど痛いの。スッゴイつらいんだ。