フキゲン・ハートビート


キッチンにむかい、持っていたハンカチを水で濡らした。

氷水じゃないからぬるいだろうけど、それでもないよりはマシだろう。


そっと額にそれを乗せてやると、彼は一瞬だけ驚いた顔をしたけど、そのままそっと目を閉じた。

ああ、つらそうだな。
これは相当な高熱が出ているはず。


スマホをたたくと、ここから数キロ離れた場所に夜間診察を行っている病院があることがわかった。


「寛人くん、いまから病院行こう。あたし運転するから、クルマだけ貸してくれない?」

「……ぜってーやだ、死にたくない」

「ちょっと! 言っとくけどいちおう免許持ってるからね!」


本当に“いちおう”で、ペーパーもペーパー、18のころに免許を取得したきり一度も運転していない、筋金入りのペーパードライバーですが。

それは病人にはさすがに言わないでおこう。


「ねえ、病院行こう? すぐ楽になるよ」

「点滴されんの」

「それはわかんない」


点滴、嫌なのかよ。
子どもか。

< 162 / 306 >

この作品をシェア

pagetop