フキゲン・ハートビート


行きも帰りもあたしが運転した。

ガチガチになり、両手でハンドルを握るあたしに、助手席の男は終始文句をたれまくっていたけど。

まあ、事故しなくてよかったって、マンションの地下に車を停め終えたとき、正直自分でもメチャクチャほっとした。


結局、点滴はうってもらった。

付き添おうとしたけど、ぜってー来るな、なにがなんでも来るなと言われたので断念。


およそ40分後、左腕の真ん中に白いテープを、額には冷えピタをぺたりと貼りつけて、生気のない顔で待合室に戻ってきた半田寛人はかなりおもしろかった。

確実に死ぬほど怒られるだろうからぐっとこらえたけど。



「――きょうはお風呂入っちゃダメだからね」


いつかあたしもお世話になったベッドに、ふらふらの病人を押しこむ。

彼はじれったそうに掛け布団を嫌がりながら、火照った顔をぷいっと背けた。


「おまえが来る前にシャワー浴びた」


なんだと。
だから39℃にまで熱が上がったんだな。


「ごはん、どうする? お粥つくろうか。食べる?」

「……どっちでもいい」

「あんたねえ……」


熱でしんどいのはわかるけど、あからさまにヤな態度とらないでほしいよ。

コッチは看病しようとしてんのに、そんなうっとうしそうにしないでよ。


「ていうか、もう帰れよ」

「はあ?」

「うつるかもしんねーだろ。あと、いちいちおまえとしゃべるのしんどい」


べつに、うつったっていいよ。

ていうかあたしはキミと違ってちゃんと食べてるし、うつる気がしないよ。

しゃべるのがしんどいなら、黙っててやるよ。


だから、


「いいからおとなしく看病されてな!」


いちいち怒っていたら治るものも治らないんだ。

ていうか、高熱が出ているときくらい、怒るのも休めというのだ。


ぷりぷりしながらキッチンに向かった。

なにがなんでもお粥をつくって、絶対に食わせてやるんだから。

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