フキゲン・ハートビート


卵も梅干しも塩昆布もなかったので、本当にただのなんでもない白粥ができあがった。

味つけ、少し薄いかなと思ったけれど、病人だし、まあいいか。


「どう? 無理して全部食べなくていいからね」


れんげや土鍋なんていう食器がこのウチにあるわけもなく、ベッドの上に座る寛人くんは、茶碗から銀色のスプーンで白粥を口に運んでいる。

ゆっくり、ゆっくり、じれったいくらいのスピードだ。


そのぼんやりした顔があまりにもつらそうで、ただ隣にいるだけなのがすごくもどかしく感じる。

とても、じっとしていられない。


「ねえ、このあたりにコンビニあったっけ? アイスピローとか、水分とか、欲しいんだけど」

「……大通り沿いに、数軒」

「わかった。いまから行ってくるね。それ食べ終わったら薬飲んで寝ててね」


ちゃんと聞こえているかもわからないな。
すぐに帰ってこよう。


立ち上がり、寝室を出ようとドアに手をかけたとき、


「なあ」


と、背中に声をかけられた。


「はい!」

「なんで、ここまでしてくれんの?」


目がテンになった。


なんで、なんて。

改めてそんなふうに聞かれると、うまく答えられないな。


でも、わかるでしょう?

目の前に高熱で苦しんでいる誰かがいるのに、放っておく人間のほうが、きっと少ないと思うんだよ。


「じゃああんたは、なんで、ベロベロのあたしを介抱してくれたの?」


同じように質問を返すと、そのアーモンド形の目がまんまるに見開き、それからきゅっと細くなった。


「……ごめん、愚問だった」


ちょっと笑っているみたいなその声を聞き届けたあとで、急ぎ足でコンビニへ向かった。

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