フキゲン・ハートビート


アイスピローは2軒目のコンビニにあった。

ついでに、2リットルのスポーツドリンクの2本目も買った。


寝室へ戻ると、お茶碗は見事にからっぽになっていた。

さらに、病院で処方された薬もきちんと飲んだみたいだった。


ベッドの上で横たわり、熱く火照る体と闘うように荒く呼吸を繰り返す彼の額に触れる。


「ごはん全部食べれたんだね。氷買ってきたから、冷えピタからタオルに換えるね」


剥がした冷えピタはすでに驚くほどぬるくなっていた。

かわりに氷水に浸したタオルをそこに乗せると、その表情が少しゆるんだ気がした。


「アイスピローも買ってきたから、頭上げてくれる?」


自分でもびっくりするくらい優しい声が出る。

わざとやっているわけじゃなく、これはもうたぶん、本能のレベル。


もしやこいつが母性本能というもの?

あたし、元同級生の男の子に母性を芽生えさせられているのか。


でも、だって、なんか、どうしてもかわいく思えてしまう。


昔から少年のような童顔だとは思っていたよ。

あと、ウチのマロに似ているところがある。


でもこの母性みたいなものは、きっとそのどちらにも、関係していないと思う。


少し汗ばんだ額から頭にかけてを、思わず撫でた。


「……蒼依」


閉じていた目を少し開いた寛人くんが、同時に薄いくちびるも小さくあけた。


「……ありがとう」


かすれた声で言われたそれがどうしようもなくうれしくて、くすぐったくて、もういちど頭を撫でてしまった。


「ううん。いろいろお世話になってるお礼」

「そっか。そうだな」


小さく笑って、彼は再び、目を閉じた。

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