フキゲン・ハートビート


何度も、何度も、頭を撫でた。

汗をかいているはずなのにさらさらと落ちていく髪がきれいで、何度でも触りたくなった。


すると、その指先を、ふいにつかまれた。


寛人くんの右手。

華奢なくせにゴツゴツしている、ちょっと男っぽい手。


その手のひらが、信じられないけど、ぎゅっとあたしの左手を握ったのだった。


やがて、指と指とが絡みあい、まるで恋人どうしがするみたいに、あたしたちは手をつないでいた。


でも、嫌じゃなかった。
ぜんぜん嫌じゃなかった。

それどころかすごく、心地よくて。



「……ねえ、寛人くん。あたし気づいちゃったんだけどさ」

「ん」

「あの雨の翌日、ひょっとして、熱でてたんじゃない?」


思い出す。

声をかけたとたん、怒ったように机に突っ伏してしまった、15歳の半田寛人のこと。


きょうとまったくいっしょだったもんね。

あの日も同じ、体調が悪かったから機嫌も悪かったのかなって、なんとなくだけど思ったのだ。


「無視したのもさ、あたしが傘のことで気に病まないようにしてくれたんだよね」


寛人くんは目を閉じたまま、鼻でフンと笑った。


「都合のいい解釈」


そうかな。
そうかもしれない。

だってたぶん、ずっと正解を教えてくれるつもりはないのでしょう。


その形はいびつでも、ちゃんと優しい男なのだと感じる瞬間が、再会してから何度だってあったよ。

でもきっとまた怒るだろうから言わない。


かわりに、つながった手にぎゅっと力をこめると、同じように寛人くんも握り返してくれた。

その指先はとても熱くて、あたしの心までもを火照らせてしまう気がした。




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