フキゲン・ハートビート
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  ☔︎


低い音で唸る、振動音で目が覚めた。


「ん……」


体が痛いな。

それに左手が痺れている。


細く差しこむ太陽の眩しさに眉をしかめた3秒後、目の前に横たわる影が見えた。


……ああ、そうか。
あたし、あのまま寝ちゃっていたのか。


すうすうと、ゆったりしたペースで寝息を立てる寛人くんはまるで、地上に落っこちてきた天使。

とか、アホなことを寝ぼけきった頭で思う。


でも、本当に、この男は黙っていたら単に美しいだけの存在なのだ。

熱のせいでじっとり汗をかき、髪が頬に貼りついているのさえ、絵になるもんね。


額に乗っかったままのタオルを取り換えようと手を伸ばしかけたとき、まだそこがつながっていることに気付いた。


……ああ、一晩中、手をつないでいたのか。

だから左手が痺れているのね。


ぎゅっとあたしの手のひらをつかんで離さないその右手は、大きいのに、まるで子どもみたいで、思わず小さく笑ってしまった。


「……熱、下がったかなあ」


あいている右手で頬に触れる。

しっとりした手触りだった。
夜中のうちにたくさん汗をかいた証拠だ。


熱を計ってほしいけど、起こしてしまうとかわいそうかな。

もう少し、寝かせてあげようかな。

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