フキゲン・ハートビート


つくりかけだったディナーは、ブランチの時間になってようやっと食卓に並んだ。

病人を寝室へ呼びに行くと、ベッドに横たわったままスマホゲームをしていた彼に、まず体温計を渡された。


「37度6分かー。微熱だね」

「でも下がった」

「安心はできない数字だよ」

「シャワー浴びたい」

「シャワー!?」


なにを言っているんだねキミは!


「今夜、熱が下がりきったらね。いまはダメ」

「は? おまえ、夜までいんの?」


はっとした。

たしかに、あたし、いつまでここにいたらいいんだろう?


とりあえずいまは夏休みで学校もないし、
バイトは……あしたの夕方までないし。

正直、この男が全快するまでずっと付き添うことも、可能といえば可能だ。


ただ、あたしだってシャワー浴びたいし、でも着替えやらなんやらは、なにもないし。

あとメイクもしたままだし。


「……でも寛人くんって、あたしがいないとたぶん死ぬよね?」

「あ?」


いつもの『ハ』が『ア』に変わった。

見ると、ベッドから立ち上がった寛人くんが、ものすごく嫌そうな顔をしていた。


「ぜんぜんいいんだよ? 回復するまでずっとここにいてあげても」

「ぜってーやだ。口うるせーのに一日ガミガミ言われっぱなしなんだろ」

「あんたねえ、そのウルセェののおかげで、いまそんな口きけるくらい元気になってんだからね!」


すたすたとひとりでリビングへ向かう背中にそう投げかけると、軽い笑い声が返ってきた。

コッチは怒っているのに、なに笑っていやがる。


でも、しゃべったり立ったり歩いたり笑ったり、そういう元気な姿を見て少しほっとしているのも、事実だ。

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