フキゲン・ハートビート


向かいあって食事をした。

やっぱり寛人くんはゆっくり食べる男の子だけど、そのおかげでいろんなことを話すことができた。

たぶん、以前ここで食事をしたときの10倍は会話をしたと思う。


「寛人くんはいつからドラムやってるの?」


食事も半分以上がなくなったころ。

かねてからのちょっとした疑問をなんとなしにぶつけてみると、目の前の男は少し驚いた顔を浮かべた。


ちょっと考えたそぶりをしたあとで、口に持っていきかけていた豚肉を彼は再び皿の上に置いた。


「興味を持ったのは、小6……だったかな。ちゃんとやり始めたのは中2の春だけど」

「へえ、そんな小さいころから!」


やっぱりプロになるようなやつは違うな。

小学生のころ、ドラムという楽器をあたしは知っていたかな。


「ねえ、なんでさ、“ドラム”なの? ギターとかのほうが目立つし、とっつきやすい感じするじゃん」

「おれはドラムがいちばんとっつきやすかったよ。それに目立つのはそんな好きじゃない」


なるほど、半田寛人らしい、いい回答。


たしかに前に出てギターを抱えているところなんて想像もつかないね。


こいつは、うしろのほうでただ黙々とビートを刻んでいるのが、いいんだ。

そのほうが不機嫌そうな顔も隠せる。


「……それに、洸介さんが言ってくれたから。おれにはドラムが向いてるって」

「洸介先輩?」

「うん。洸介さんに誘われたんだ、一緒にバンドやらないかって。兄貴をボーカルに立てるつもりだから、おれにはドラムをやってほしいって。それが中2の春で」


続きの言葉を言いかけたけど、寛人くんはそこでぎゅっとくちびるを結んでしまった。


なんだなんだ。

なにを言おうとしたのだ。

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