フキゲン・ハートビート


「……洸介さんって、かっこいいだろ」

「へあ?」


やっと続いた言葉が予想外すぎて、思わずまぬけな声が出てしまったじゃないか。


ていうか、なに、その照れたような、居心地悪そうな顔。


……え、もしかして、
こいつってソッチの人だったりするわけ?


食事を進めることも忘れて、ごくりと、大きく息を飲んだ。

まあ、たしかに中性的な見た目をしているし、そう言われたら納得できないことはないけど……。


……いや、やっぱりなんかチョット違うでしょ。

差別とかそういうアレとはまた別のところで、いろいろ納得できないよ。


「洸介さんがいなかったら、おれはバンドなんかしてなかった」


きっぱりそう言いきった寛人くんは、いままでに見たこともないような表情をしていた。


「恋……してるの?」

「は?」

「洸介先輩のこと、好きなの?」


正直、自分でもなにを言っているのか、よくわからない。


でも、だって、明らかに恋をしている顔だったんだ。

ちょっとうれしそうな、でも一生懸命フツウを保っているような、そういう顔。

幸せそうなのに、切なそうな顔。


半田寛人にこんな表情をさせる瀬名洸介は、きっとただ者じゃない。


「ぶふ」


なのに、寛人くんは笑った。

我慢したけどこらえきれなかったってふうに。


「それ、だいぶ前、季沙さんにも言われたことある」


マジかよ。
カノジョさんオフィシャルなアレなのかよ。

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