フキゲン・ハートビート
「たしかに、洸介さんのこと好きだよ。あの人にはじめて会ったのは12歳のときだったけど、はじめから強烈に憧れてたと思うし。たぶんこれは惚れてるのに限りなく近い気がする」
「や、で、でもアレだよ、洸介先輩には季沙さんが」
「いいから最後まで聞けよ」
優しく濡れたつり目が、あきれたような色を浮かべて、あたしを捕らえた。
「あの人は圧倒的な“自分”を持ってるから。自分は自分、だから他人には興味ないって感じ、わかるだろ」
「……うん、ちょっとわかる、かも」
ついでに、なに考えてるのかよくわかんない、って感じもあるけど。
「おれはずっと洸介さんのそういうところに憧れてた。ぶれないやつになりたいって、いまもずっと思いながら、あの人のこと見てる。
……ほんと、すげー尊敬してる」
ちょっと意外だった。
寛人くんは他人に憧れたりすることなんて絶対にないって、なんとなく思っていたから。
こんなことをあたしに話してくれることも意外で、それ以上に、なんだかうれしかった。
重大な秘密を教えてもらっているような気がした。
「だから、そんな洸介さんに与えてもらったバンドとドラムが、おれにとっていちばん大切でさ。……なあ、おれ、なに話してんの?」
知るか。勝手に話しだしたんじゃないか。
洸介先輩のことになったとたん急に饒舌になっちゃって。
でも、いいな。
まっすぐ誰かを尊敬したりできること、けっこううらやましい。
そういう存在に出会えたことがうらやましい。
それを真剣に口にできることがうらやましい。
寛人くんは洸介先輩を憧れだと言うけど、あたしは、そんな寛人くんをスゴイかっこいいと思うよ。
ぶれないモノとやらを、すでにちゃんと、持っていると思う。