フキゲン・ハートビート


重たいドアを開け放った。

あばよって気持ちで、一歩目を踏みだした。


――はず、だった。



「うわっ」


外に出たと思ったのに、次の瞬間にはものすごい勢いで家のなかに押し戻されていたので、そりゃあ声も出る。


「ひろのすけ~! 会いたかったよ!」


状況についていけないでいると、がばっとあたしに抱きついてきたモノが突然、耳元で大きな声を出した。


ヒロノスケって、なんだ。
ネーミングセンスのかけらも感じられないな。


とかなんとか、どこかで冷静に思っていると、飛びついてきたモノは同じくらい俊敏にあたしから離れて。


「……って、あれ? 違う! ヒロちゃんじゃない! 誰アンタ!?」


それはコッチのせりふだっつーの!

と、言えなかったのは、目の前にある顔にすごく見覚えがあったから。


いや、すごくすごく見覚えがあるよ。

この子ならよく知っているよ。


だって、この子……



「――ユカっぺ!?」



大きくうるんだ目。

ぐるんと大きな弧を描き、天に向かって伸びるフサフサまつ毛。

特徴的なアヒル口。

そこからのぞく、控えめな八重歯。


……どこからどう見ても、ユカっぺだ。


いまスッゴイ人気のアイドルグループ“EYE☆LUSH(アイラッシュ)”の、YUKAちゃんだ。


そりゃ、見覚えもあるに決まっている。

なにせ、毎日のようにテレビで見かけているので。


「どうも、こんにちは! ユカっぺでぇす」


うわあ、ホンモノだ!

いやぁ、やはりアイドルというのは、生で見ると信じられないほどかわいいのですね。


「――で、アンタはヒロちゃんのなんなわけ?」


……それでいて、やっぱり気の強いのが、多いのですね。

ちょっと声にドスが効きすぎだよ、ユカっぺ。

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