フキゲン・ハートビート
ああ、きっと新奈は、あたしが思うよりもずっと真剣に、洸介先輩を好きなんだ。
「500%ふられるやろけど、これからはいままでみたいに優しくしてもらえへんかもしらんけど、季沙さんにかて嫌われてまうかもしらんけど……」
まるで自分に言い聞かせているみたいだった。
そこで言葉を止めた新奈は、ぐっと顔を上げて、あたしをじっと見た。
必死な顔。
思わず、息をのむ。
「でもウチ、季沙さんのことも、みんなのことも好きやからこそ、ちゃんと言うときたいねん。言わな、ずっとモヤモヤして、しこりが残って、逆にアカンと思うねんな」
「……うん」
新奈はやっぱり強いよ。
だって、ふられるのは、誰にとってもコワイこと。
好きな人に好きだと伝えるのは、死ぬほど恥ずかしくて、勇気のいること。
それでも、その先の幸せを掴みたいから、みんなその恥ずかしくてこわい試練を乗りこえてゆくわけで。
「潔くスパッとふられてくるから、その日の夜は空けといてな。絶対やで」
はじめからふられるとわかっているのに、それでも気持ちを伝えたいと思う新奈は、すごく強い女の子だ。
あと、ほんと、すっごいバカ。
「……わかった。死ぬほどアルコール用意しとくよ」
それでも、これが新奈の恋のし方。
あたしは応援するしかない。
ふられたら、いっしょに飲み明かすくらい、せめてさせてほしい。
「あはは! ホンマすぐ酒やしなぁ、ウチら」
「女子としてけっこうヤバイよね」
洸介先輩が、できるだけ新奈を傷つけませんように。
季沙さんが、新奈を嫌いになりませんように。
まだまだ暑い9月の空に、そんな、ヘンテコなお願いをした。