フキゲン・ハートビート
買いこんだアルコールのなかから500mlの缶ビールを選ぶと、大和は勢いよくプルタブを引いた。
この男をウチに上げるのはいつぶりだろう。
当時お気に入りだったカエルのクッションを、大和はきょうも膝に抱えて、窮屈そうにあぐらをかいている。
「なあ、部屋ちょっとキレーになった?」
「あー、うん。ちょっとね……」
Gくんが出たのでね。
本当にあの夜は地獄だったので、実はあれから掃除にはかなり気を遣っている。
「チョットってなんだよ? あーわかった。あいつがキレイ好きなんだろ?」
「アイツ?」
「こないだ、いただろ。あの小せえ目つきの悪い男」
小せえ目つきの悪い男、て。
その張本人が聞いたら確実にブチギレるせりふだ。
いつもの調子で『ア?』とソッコー返すはず。
「なあ、あいつにも謝っといて。いろいろ悪かったって」
「イロイロってね、あんた、そんなんで鎮火するようなやつじゃないよ」
まあ、鎮火もなにも、べつに怒ってすらいないと思うけど。
でもそれを大和に言う必要はない。
こいつなんか、無駄に反省していろ。
「蒼依はあいつと付き合ってんの?」
飲んでいたビールが鼻から出そうになった。
ちょっと鼻の奥がツンとした。
「……大和には関係ないよ」
「あんだろー。俺が言うのもなんだけど、蒼依ってけっこう騙されやすいとこあるからさ、大丈夫なんかな?って」
よけいなお世話すぎてビックリするわ!
今度こそ鼻からビールが出るっての。