フキゲン・ハートビート


おつまみはチーたら。大和の好物。

それに手を伸ばしながら、少しだけしゅんとしたように、彼は口を開いた。


「俺、マジで蒼依のこと騙そうとか、そういうつもりじゃなかったよ。本気でおまえのこと好きだったし、でも……リホのことも大切で。正直、どうしたらいいかわかんなかった」


わかんなかった、って、そんなこと言われましても。


小学生かよ。

どうしたもこうしたも、そこまで本命がちゃんと大切なら、あたしに手を出すべきじゃなかったんだ。


こんな簡単なことすらわからないようなやつに、恋愛をする資格などない。


「蒼依のこと、手放せなくてごめん。苦しい思いさせてごめん。……ごめん」


でも、あたしだって、同罪なことに変わりはないのだ。


「もう、いいから」

「蒼依……」

「あたし、大和に本命の彼女がいること、途中から知ってたの。それでも別れられなかったのは、あたしにも責任があったと思う」


恋愛はいつだってお互いさま。

どっちが悪いとか、どっちがいいとか、そういうのはきっとない。

考えるだけ無駄なこと。


終わってしまったことなら、なおさら。


「だから、いいの。もう忘れよう?」


大和は少し純粋すぎるだけの男なのだ。


自分の気持ちに嘘がつけなくて。

いつも自然体で。

悪気というものを、知らなくて。


きっと、あのころ、心からあたしを愛してくれていた。

きっと、いま、心から謝ってくれている。


それを確信できるから、もう、いい。

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