フキゲン・ハートビート


缶ビール一本なんて、あっというまになくなった。

2本目に手を伸ばしたあたしと反対に、大和はこれ以上飲もうとしなかった。


「いらないの?」

「うーん。あんまり飲むといろいろ抑えられなくなるしなぁ」

「はあ? 彼女いるくせにほんとサイテーだね、あんたって」


ちょっとは瀬名洸介という男を見習ってほしいところだよ。

洸介先輩って、季沙さん以外の女性に全裸で迫られたとしても、たぶんまったく動じない気がする。


大和は絶対ダメだな。
がっつくに決まっている。


「蒼依もなあ、あんまり男の前で無防備になっちゃダメだからな? 男はオオカミっていうだろ」

「え、それ大和が言うの?」

「俺だから、言うんだよ」


まあたしかに説得力スゴイや。

思わず笑うと、なんだよって頭を小突かれた。


こんなふうに大和と笑いあうことなんか二度とないと思っていたよ。

すごく、不思議な感じだ。


「……大和さぁ、彼女さんと仲良くやりなね。二股かけてても許して、好きでいてくれてんでしょ?」

「言われなくても大事にしてる。喧嘩ばっかりだけどな」

「それはあんたがだらしないからでしょーが」

「そうかなあ」


そうだよ。

だらしなくって、悪気がなくって、ヘラヘラ・ふわふわしている感じ、時々スッゴイむかつくよ。


でも、たぶん、リホとやらは大和のそういうところをまるっと愛して、傍にいるんだろうな。

やっぱりはじめから、あたしに勝ち目なんかなかった。

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