フキゲン・ハートビート


「……だからさ。モト浮気相手のところになんか顔出してる場合じゃないよ、ほんと」


2本目のビールのプルタブを引いた。

プシュッという気持ちいい音が、缶ビール最大のいいところだと思っている。


「あたしたち、もう会わないほうがいい」

「……そうだよな」

「うん、絶対、会わないほうがいい」

「うん」


少しの沈黙が落ちた。

それでも大和は帰ろうとしなかったし、あたしも、帰って、となぜか言えなかった。


長くて短い静寂のあと、先に口を開いたのは大和のほうだった。


「……蒼依は、あいつとうまくいってんの?」


あいつって、小せえ目つきの悪い、寛人くんのことかな。


「いや、うまくいくもなにも、はじめからあの人とはそういうんじゃないし」


トモダチですらない。

ひょっとしたらもう、知り合いでも、なんでもないのかも。


なぜなら、寛人くんが熱を出したあの日からもうそろそろ1か月半程になるけれど、あたしたちはいっさい連絡をとっていない。


それでも時たまふと気になる。

あのあと、ちゃんとユカっぺに看病してもらったのかな、ちゃんと元気になったのかな、って。


「え、俺、イマカレでもなんでもない男に喧嘩売ったのかよ」


ちょっと驚いたみたいな顔をした大和が、そのあとで盛大に笑った。

なに笑ってんだよ。

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