フキゲン・ハートビート


「でも、いい男だったよな。付き合ってもない女のためにあそこまで真剣に怒れるモンかよ」


カエルのクッションをぼふんと軽く叩きながら、大和は言った。


「だからそれ、あんたが言うなって」

「いやぁ、だってあのとき正直、俺に勝ち目ねーなって思ったんだよ。そしたらもっとむかついてさ……。悪かったって」


大和と寛人くん、どちらがいい男かと聞かれたら、寛人くんだもんな。


あのときは本気でかっこよかった。

けっこう本気で、救われてしまった。


ていうか、寛人くんうんぬんというか、大和よりクソなやつのほうが、めずらしいと思う。


「あいつ、蒼依に惚れてるよ」

「――ガフッ」


今度こそ本当に鼻からビールが出た。


「いい男じゃん。あいつにしたら?」


あいつにしたら、て、ね。


「あの人はあたしのこと、ほんっとーになんとも思ってないから。ウゼェとかウルセェとか言われてばっかりだし、熱出して看病したら帰れとか言われるし、それからいっさい連絡もよこしてこないし!」


思い出したら腹が立ってきた。

そしてまた、得体のしれない恥ずかしさがぐわっとこみ上げた。


「あっはっは! なんだそれ、せっかく看病してやったのに『帰れ』って言われたのかよ? やべえ~」

「なに笑ってんだよバカ!」

「いやぁ、俺あいつのことよく知らないけど、なんか言いそうなやつだなって想像ついて」


大笑いしやがって。
コッチはわりとダメージ食らったんだぞ。

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