フキゲン・ハートビート
チーたらをわしっと掴み、口に放りこんだ。
それを見ながら、大和はやはり笑っていやがる。
「いやでも、俺は好きな子にかいがいしく看病されるのとかけっこう好きなほうだけど、そいつの気持ちもちょっとわかるわ。弱っててダセェとこ見られたくないとか、風邪うつしたくないとかさ、多かれ少なかれ男は思うもんだよ」
そうかな。
あの男に、そういう思考回路は微塵もないと思うけど。
「蒼依もさ、連絡よこさねえって意地張って待ってないで、自分から連絡したら? いろいろ気になってんだろ?」
心臓にくることを、いきなり言わないでほしい。
大和はクソ野郎だけど、やっぱりスゴイやつだ。
あたしのことをよくわかっていて、スッゴイくやしい。
「……まあでも、あいつ、看病してくれる女の子、いるっぽいし」
「え、マジ? また二股かけられそうになってたのかよ、蒼依」
「ちょっと本気で殴るよあんた」
二股かけてた張本人がヘラヘラ笑ってんじゃねーよ。
死んだあとは地獄にでも落ちたらいい。
というか、落ちろ。
頼むから、落ちてくれ。
「二股とか、つきあうとか、あいつとは本当にそういうんじゃなくてさ。トモダチになりたい、仲良くなりたいって思ってたのはたしかだけど。
でも……どう足掻いても男女なことに変わりないし、なるべく波風立てるようなことはしたくないの。誰かの幸せ壊すの、ほんとにもう、こわいんだよ……」
いつのまにか、あたしは子どもみたいに膝を抱えていた。
こうして体をまるめて抑えこんでいなければ、なにか得体のしれない、自分でもわからない感情が、どばっとあふれ出してしまう気がして。
大和は、今度は笑わなかった。