フキゲン・ハートビート


笑わないかわりに、大和はあたしのまるまった体を、力強く抱き寄せた。


「……なあ。蒼依が臆病になってんのは、俺のせい?」


なぜか、抵抗する気が起きない。

耳元でささやかれた、低くて優しい声に、もう飲みこまれたくなんかないのに。


「ほかに、誰のせいなんだよ……」

「……うん、ごめん」


謝るくらいなら、最初から二股とか、かけんなよ。


だって、あたしが壊した。

リホの幸せを壊したのは、大和じゃなく、きっとあたしだった。


「ごめん、蒼依。……なあ、やっぱり蒼依は俺じゃないとダメなんだよ。リホと別れるから……ちゃんと、別れるから、はじめからやり直そう? 今度は絶対、本気で、幸せにする」


ほんとかよ。

絶対、嘘だよ。


大和がリホと別れられるわけがない。

もうさんざん思い知ってきたことだ。


でも。

でも、でも……



「蒼依……やっぱりいまでも、おまえの顔見るとダメだな」


切なそうにそうこぼした大和に、とうとうくちびるが捕まった。


「……ん」


なにしてるんだろう、あたし。本当にサイテーだな。

大和も、あたしも、そろそろリホにぶち殺されるべき。

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