フキゲン・ハートビート


たしかに、寛人くんってチョット潔癖ぽいところがある。

あんまり他人を家にも上げたがらないと、前に俊明さんも言っていた。


「……たしかに、こういう鍋とかを人と食うのは苦手」


やっぱりそうなんだ!

リサーチ能力が足りてなくてゴメン、という気持ちと、人にメシつくらせておいて文句はないよね、という気持ちが半々くらいで、なんだか変な顔をしてしまっている気がする。


それでも52%くらい、ゴメンのほうの気持ちだった。

僅差だけど、優しい真島蒼依さんには、ソッチが勝ってしまった。


「どうする? もしアレだったら、お皿に小分けにして……」

「いい。このまま食う。皿にあけたら冷めるだろ」


言いながら、寛人くんは濃い茶色の箸で、とうとう鍋をつついたのだった。


「それに、汚ねえとかそういうのは、もういまさらって感じだろ。あんなことしといて」


あまりにもなんでもなく言うから、あたしも軽くダヨネ~なんて返しちゃったけど。


ダヨネ~じゃないよ。

あたしはバカか。


その言葉の意味がわかったとたん、ぼっと顔が熱くなる。


いやいや。
なんでこんなおかしなタイミングで、いきなり掘り返すんだよ?

なんでそんな、なんでもない顔をしているんだよ?


「……食わねえの?」


今度は寛人くんのほうがそのせりふを言った。


食わねえんじゃない、
食えねえんだ。

誰のせいでそうなったと思ってんだ。

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