フキゲン・ハートビート
ぼけっと洗い物をしていた。
食器と箸、グラス、それにくわえてきょうは重たい鍋もある。
その隣で、ピカピカになった食器を別の指が受けとっては、白いタオルで念入りに水滴を拭いていく。
「ねえ。今度さ、CDでるでしょう」
鍋をスポンジで磨きながら、なるだけフツウの言い方を心掛けた。
「うん」
「買おうと思ってたんだけど、俊明さんに、寛人くんにもらえばいいって言われちゃった」
これじゃまるで、俊明さんを戦犯に仕立てあげているみたい。
ヤな感じ。
ごめんなさい。
「え、欲しいのかよ」
なぜか、すごく意外だってふうに言われて、こちらも意外な心境になってしまう。
「え……うん。そりゃまあ……いちおう?」
「いちおう、かよ」
いちおう、じゃないけど。
仕事の話には、どこまで踏みこんでいいのかわからなくて、変に遠慮した言い方になってしまうのだ。
バカだな。
聴きたいから欲しいって、どうしてちゃんと言えないんだろう。
隣の男がめずらしく小さく笑うのがわかった。
「べつにいいけど」
え!
「やる」
「いいの!?」
「うん、べつに」
まさかこんなにあっさり承諾してもらえるなんて思っていなかった。
どこか呆けた気持ちで、つくりもののように美しい横顔を眺めていると、やがてその完璧な比率の顔がこっちを向き、怪訝そうに眉をしかめた。
あわててスポンジを前後左右にせっせと動かす。