フキゲン・ハートビート


ふと、あたしと同じくらいか、それよりも白い腕がこっちに伸びてきて、洗い終わった鍋を掴もうとして、いっしょに、あたしの指先も掴んだ。


「ひ……っ!」


事故だった。

いまのは確実に、本当に、事故だった。


だから、まるで拒絶するみたいに、瞬間的に手を引っこめたあたしは、サイテーだと思う。

それに『ヒッ』も絶対ナシだ。


ちょっとびっくりしただけなんだ。

エロイコトを考えていた真っ最中だったんだ。

本当に、タイミングが悪かっただけなんだ。


それでも言わなきゃなにも伝わらない。

寛人くんはぎょっとしたようにあたしの顔を数秒見つめたあと、ふいと視線を逸らしてから、ぼそりと言った。


「ごめん、わざとじゃないから」


あ、どうしよう。やばい。


「あ……ごめ、ん」


きゅっとくちびるをかたく結んだまま、彼はそれ以上、なにも言おうとしなかった。

ついでに、それから一度たりとも、あたしを見ようとしなかった。


どうして、
なんか、なんにもうまくいかないな。

急に、なんでだろう。




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