フキゲン・ハートビート
正直、駅までの道のりを当たり前のようにアキ先輩の隣を歩けていたことよりも、切符売り場の前で半田くんが待っていたことのほうが衝撃だった。
とりあえず今夜は家までの切符を購入しよう、
とコインを券売機に投入しようとした、そのとき。
冷たい声に無慈悲に「おい」と呼ばれて、思わず100円玉を落としてしまったのは仕方ない。
「どこからどこまでなんだよ」
「え?」
「定期。どこからどこまでなのかって聞いてんだよ」
やはり不機嫌そうな半田くんに圧倒されてしまい、思わず駅名を答えると、彼はこちらにはなにも言わないで駅員さんに向き直り、なにやらやり取りをしているようだった。
「……ちょ、ちょっと待って!? まさか……!」
「これでいいんだろ」
「はい!?」
「もう二度と失くすなよ」
駅名と日付が印字されたICカード。
彼がなにをしていたのか気付いたときにはもう、それはあたしの手のひらに収まっていた。
「こ、こんなの受け取れるわけ……」
「もう買ったから返品は無理」
「お、お金……お金返すっ……」
「気分ワリィからいい」
こんなのは優しさでなく、嫌がらせ以外のなにものでもない。
本当にふざけないでほしい。
それなのに、ヤツはあっというまに自分の分の切符を購入して、あたしのほうなんか見向きもせずに改札をくぐって。
……ああ、ますます腹が立つ。
「終電だけど、乗らねーの?」
ああもう、むかつくなあ。
アキ先輩と同じ顔しやがって。こんちくしょう。
「……乗るよっ!」
こんちくしょう。