フキゲン・ハートビート
「――マシマ・アオイ」
体がビクッと跳ねたあと、カチンコチンに固まるのがわかった。
どうしてフルネームが割れているわけ。
どこで知ったわけ。
もしかして、ほかにもイロイロ、リサーチ済みだったりする?
ああ、恐るべし、国民的アイドル……。
おそるおそるふり返ると、そこには腕組みをした超絶美女がいて、また足がすくむ。
こわすぎる。
最高にかわいいけど、その分だけ、ものすごい威圧感が共存している。
「どーぞ、入って! ヒロちゃん、いまいないけど」
「え……あ、いや、」
「遠慮しないでよ。ユカとお話しよ、ね?」
ノーとは言わせない雰囲気。
正直いますぐにでも飛んで帰りたかったけど、のちのちが恐ろしいので、ひとまず言われるがまま家に入った。
家主がいないというのに、それも家主はあの半田寛人だというのに、本当に、大丈夫?
「あおちん、コーヒーは好き?」
アオチン!?
それは、なんだ、赤チンの仲間かなんかか……?
「ユカはミルクと砂糖入れるけど、あおちんは?」
「あ……えと、ナシで、大丈夫デス」
「オッケー、わかった! じゃ、座ってて~」
カウンターのむこう側で普通にインスタントコーヒーをつくっているユカっぺは、なにひとつとして迷うそぶりさえなさそうだ。
どこになにがあるのか、ぜんぶ把握しているという感じ。
マグカップも、スプーンも、さらりと使うんだな。
まるで、自分チ、自分のものみたいに。
「はーい、お待たせっ」
およそ5分後、テーブルに色ちがいのマグカップがならんだ。
水色と、ピンク。
ああ、これって男女のペアマグだなって、頭の片隅で思ったのには、知らないふりをしておく。