フキゲン・ハートビート


国民的アイドルのいれるインスタントコーヒーは、ちょっとだけ薄くて、アメリカンな味。


「調味料が増えてるんだけど、全部あおちんだよね?」


数秒の沈黙がふっと落ちたあと、ユカっぺは唐突に言った。

コーヒーの香りが鼻につんときて、噎せそうになった。


「ユカ、ずっと知ってたんだよねー。ヒロちゃんちに定期的に出入りしてる女がいるってことは」

「出入りとか、そんな……」


たしかに、『出入り』なことに変わりないけど。

でも本当に、ゴハンをつくって食べさせているだけの、家政婦みたいなものというか。


まあ、一度だけ、
たった一度だけ、

過ち、のようなことはあったけど。


「でも、あおちん、合鍵すらもらってないんだね?」


びっくりした。

まさか突然、そんなふうに喧嘩を売られるとは、思ってもいなかった。


女子はやっぱりコワイなって思う。

こんなまわりくどい攻撃なんかしないで、とっととハッキリ文句を言えばいいのに。

そうしたらこっちだって、それ相応の対応をできるのに。


「そりゃ……べつに、つきあってるとかそういうんじゃないですし」

「えー、ユカはつきあう前にもらったよ? 合鍵」


アイカギアイカギうるさいな。

べつに、そんなのなくたって困らないし。
ていうかそもそも、いらないし。

そんなことでスゴイ勝ち誇った顔をされましても。


とか、思いながらも、胃のあたりがむかむかしているのはさすがに自覚があった。

ああ、やだな、なんだか気持ち悪くなってきた。

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