フキゲン・ハートビート


胃のなかのものがウッカリ逆流する前に、まだ熱々のコーヒーを喉へぐいぐい流しこむ。


案の定、ベロを火傷した。

じんじん痛い。


それに、本当は、アメリカンはあまり好きじゃないのだ。


「あおちんは、ヒロちゃんのこと好き?」

「……げっほ!」


人がモノを口に入れているときに、おかしなことを言わないでよ。


「ユカ、真剣に聞いてるよ。だからあおちんも、ちゃんと答えてね」


ユカっぺは、甘ったるい声、甘ったるいしゃべり方をする。

それはテレビのなかだけじゃないんだなあ、と感心していたけど、こんなふうに落ち着いた声も、出せるんだな。


とてもじゃないけど顔は見られなかった。


「……好きじゃない」


あたしのほうは、いま、フツウに話せているかな。
声は震えていない?


「ねえ、本当に? 絶対? 好きじゃない?」

「本当に、好きじゃないです。だってタダの同級生だもん。前にも言ったよね」


ずきずき。じくじく。
まるで、心が腐っていくみたいだ。


「あのね……ユカは、ヒロちゃんのこと好きなの。大好きなの。真剣に、真剣に、大好きなんだよ」


知っているよ。

そう言うかわりにうなずくと、絶対的美少女はちょっとだけ切なそうに、ぐにゃっと笑ったのだった。

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