フキゲン・ハートビート
「ユカね、ヒロちゃんのこと好きすぎて、ヒロちゃんのことになるとイロイロわかんなくなって。ヒロちゃんがちょっとほかの女の子としゃべっただけで、もうウワ~!ってなっちゃうのね。そしたらすぐスイッチ入っちゃって。
ねえ、あおちんにもいっぱいヤなこと言ったよね。……ごめんなさい」
ああ、わからないな、と思う。
その感覚。
ぜんぜん、わからないや。
そういう、なりふりかまっていられない恋を、あたしはひょっとしたら、いままでに一度もしたことがないのかもしれない。
でも、わからないけど、わからないなりには、わかる。
ユカっぺがどれだけ本気であの男のことを好きなのかということだけは。
わかるよ。
いちおう、あたしだって、同じ“女”として生まれたから。
「あのね。たとえヒロちゃんとあおちんのあいだに本当になにもなくって、本当の本当にタダの同級生、友達だとしても、どうしても……ダメなんだ。嫌なの。仲良くしてるの見ると、すごくヤキモチ妬いちゃうの。
別れてるし……もうカノジョでもなんでもないクセに束縛して、ウザくてキモイのはわかってる。でも、ダメなの。ヒロちゃんのことが、好きなの」
腐りかけた心に、清い言葉が刺さっていく。
ユカっぺはやっぱりテレビで見るのとなんら変わらないな。
最高にカワイイよ。
それは、たぶん、お顔の話だけではなくて。
泣きそうな顔でくちびるを震わせている彼女は、アイドルというより、ひとりのふつうの女の子で、もうコワイという気持ちなんかはきれいになくなっていた。