フキゲン・ハートビート
「……もうヒロちゃんと会わないでくれませんか。お願いします、ごめんなさい、お願い、します」
国民的アイドルにこんなふうに頭を下げさせたなんてバレたら、あたしも彼女のファンから刺されてしまうかも。
「……わかりました」
「え……」
「あたしも、ごめんなさい。ユカっぺがあいつのことすごく好きなのは前に会ったときにわかってたのに、いまだにこんなふうに、家に来たりしてて。不安にさせて、ごめんね」
ユカっぺがゆっくりかぶりを振った。
瞳の傍らに、ダイヤモンドのようにちかちかまたたく、たくさんの美しい涙を溜めて。
「ヤダ、あおちん、謝らないでよ……。そもそも、ユカにこんなこと言う資格も、権利もないんだよ」
なんだ、そういう感覚も、きちんと持ちあわせているのか。
「ううん、あるよ。半田寛人のことを好きなんだから、いいんだよ。恋はこうやって勝ちとっていくものだって、あたしも思うよ」
まあ、こないだ“本命”にすっかり負けたあたしが、えらそうに言えることでもないけれど。
「あおちん、トッシーの言ってたとおり、スッゴクいい子だね」
ダイヤモンドをきらきらさせながら、ユカっぺがにっこり笑った。
テレビのなかの営業スマイルとはまた違う、とても眩しい笑顔だった。