フキゲン・ハートビート
「ね、あおちんは好きな人いないの?」
「あー……どうかなあ」
なんとなく、大和の話をした。
こんな話はサムイかなって思ったけど、それ以外にできる恋愛の話なんてなかったし、だからといってなにも無しじゃ、また彼女の不安を煽ってしまうかもしれないと思ったから。
それでも、こんなしょうもない話を、ユカっぺは思いのほかウンウンと真剣に聞いてくれたのだった。
そして怒った。なにそいつシネ、って。この、カワイイお口で。
国民的アイドルにまでシネとかなんとか言われてしまう大和に少しだけ同情したけど、それ以上になんだかスカッとしてしまったのも本当だ。
「ユカっぺは、半田寛人以外につきあった男はいないの?」
「いないよぉ。ヒロちゃんがはじめてのカレシで、ヒロちゃんにとっても、ユカがはじめてのカノジョ」
「えっ! そうなんだ……」
意外という気もするけど、妥当という感じもする。
たしかに、中学時代、寛人くんの浮いた話なんかはいっさい聞いたことがなかったかもしれない。
女っ気どころか、トモダチすらいなかったし、そりゃそうか。
そうか、はじめてのカノジョが、ユカっぺで……そうか。
「ね、ユカも自分の話していい?」
たしかめるようにそう言ったけど、彼女はあたしの返事を待たないで口を開いた。