フキゲン・ハートビート


「ユカねえ、小さいころからアイドルにあこがれてて、どうしてもなりたくて、ひとりで東京に出てきたんだよね。ちなみに実家は日本列島の北のほうにあるんだけど。

16歳でひとり暮らしって、死ぬほどさみしくて。なんとか事務所に所属はしてたけど、ぜんぜんお仕事もなくって。最初のころはほんとにダメダメでね。何回も心が折れそうになったけど、簡単に夢を捨てることなんかできなくて、実家には帰れなかった」


孤独だったと、ユカっぺは言った。


「そんなとき……高2の4月、ヒロちゃんがウチのクラスに転校してきたの」


寛人くんはいったいいつ地元を離れたんだろうと、ひそかに疑問に思っていたけど、そんなに早い時期から東京に出てきていたのか。

まったく知らなかった。
なんせ、高校は別だったので。


「はじめ、ユカはヒロちゃんのこと“一般人”の男の子だと思ってたんだよ」


たまに耳にするような、芸能人がうじゃうじゃいる高校とか、そういうのではなかったらしい。

ふつうの高校。


そこで、ふたりは偶然、出会った。


「でも、ヒロちゃんも同じだった。バンドやるために……まあ瀬名くんたちについてくるかたちではあったけど、高校生で実家を出て、上京してきて、ちゃんとひとりで生活してた。アッキーっていうお兄ちゃんが近くにいるのに、ヒロちゃん、ぜんぜん頼ってなくって。

同い年なのに、それがたまらなくかっこよく見えて、ユカがもうスッゴイなついちゃって」


まんまるの目が、なつかしそうに、優しく、細くなる。

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