フキゲン・ハートビート
時間も時間なので、駅もガラガラだったけど、電車のなかもガラガラだった。
いくら東京といえど、都心でもないし、日曜日の夜ってこんなものか。
それにしても、だ。
まさかあまいたまごやきの……“芸能人”の方々といっしょに終電に揺られる日がくるなんて、夢だと言われたほうがきっと納得できる。
「アオイちゃん、よかったらまたライブ来てな」
夢心地のままぼけっと電車の揺れに身をゆだねていると、キラキラした声に突然そう言われた。
「あ……はい! 友達がすごく洸介先輩のファンらしいので、またいっしょに来ます!」
「え、マジ? おい、聞いたかよ洸介、よかったな」
カノジョさんの肩に頭を預けて、もうほとんど眠りこけている洸介先輩が片目だけを半分ほど開ける。
「おまえさ、いくら中学の後輩といえど、オレら以外のやつの前で季沙とイチャつくのやめろよ……」
「だって、眠いし」
「ぜんっぜん理由になってねえよ!」
カノジョさんの名前、キサさん、というんだな。
キサさんはとても優しい瞳で洸介先輩の寝顔を見つめていて、なんだかその瞬間、ふたりの歴史を見たような気がした。
彼女もきっと、ステージにこそ上がらないものの、“あまいたまごやき”の一員なんだ。
なんとなく、そんな感じがする。
それにしても、あのアキ先輩を華麗なツッコミ役にまわらせてしまう洸介先輩って、もしかしたらものすごい大物なのかもしれない。
「そうだ、アオイちゃん。せっかくだし今度いっしょに飲み会しねえ? そのお友達ちゃんも誘ってさ」
「えっ。なぜに!? さすがにそんなの恐縮ですよ……!」
「オレらがいいっつってんだからキョーシュクもクソもねえって。あ、そうだ、いちおう寛人と連絡先交換しといてよ」
そこはアキ先輩じゃなくて半田くんなのか。
……まあ、当たり前か。
あーあ、なに微妙にがっかりしているんだろう、あたし。