フキゲン・ハートビート


どうか気づかないで、

と、祈った。


いまあたしが家にいるということに、どうか気づかないまま、留守だと思って帰ってほしい。


もういちどインターホンが鳴った。

肩がビクッと跳ねて、思わず声が出そうになったので、あわてて口を押さえる。


……ああ、どうしてあたし、隠れているんだろう。


いやだな。

鍋、火にかけたままなのに、この状態じゃ止めに行くことすらできない。


そうしているうちに、ふいに、コツン、と。

今度はインターホンじゃなく、右腕が接しているドアに直接、小さな衝撃を感じた。


「……なあ」


その低い声を、とても、久しぶりに聞くよ。


というか家にいることはバレているのかな。

まあ、そうだよね。
テレビもついているし、夕食のにおいもするか。


「なあ……おまえさ、居留守使うほどかよ」


体が石のように硬くなる。

無意識のうちに、両手をクロスさせ、守るようにぎゅっと自分を抱きしめていた。


ぶんぶん首を横に振るけど、ドアのむこう側の寛人くんには見えないから、意味ないね。

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