フキゲン・ハートビート


「――寛人くん……っ!!」


ものすごい勇気をもってドアノブをひねったのに、それは想像よりも簡単に開いて、そしたら廊下に勢いよく飛び出しすぎてしまった。


そんなまぬけなあたしを、相変わらずのネコ顔がふり返り、びっくりしたように見ている。

ああ、つり目がちょっと開いている。


たった数週間会っていないだけなのに、なんだかひどくなつかしく感じて、たまらない気持ちになってしまった。


「……ごめん。ありがとう、CD、わざわざ……ありがとう」

「ああ……うん。べつに」


驚いた顔でコッチを凝視したまま、彼は形のいいくちびるを小さく動かす。


でも、思い出したように、はじかれたように、その視線はふっと外れた。

悲しいほどあっけなく、あたしは彼の世界から消えた。


悲しい、なんて思うのはきっと間違っている。

ただ、11月の冷たい風が建物のなかにまで入りこんで、ついでにあたしの心にまでも入ってきているみたいだ。


どこか、冷え冷えする。


「……ユカっぺと、どうなの?」


ちょっと笑いながら訊ねた。


なるだけ重たい空気にならないように。

悲しいという、間違った気持ちをかき消すために。


「なんで……」


彼は言葉を続けかけたけど、ぐっとくちびるを結んで、ベツニ、と言う。


「おまえに関係ないだろ」


関係ない、だって。

まあ、ごもっともだけど、面と向かって言われてしまうとけっこうグサッとくるものがあるね。

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