フキゲン・ハートビート


「久しぶりに会って最初の話題がそれかよ」


寛人くんも笑った。

力ない感じの顔だった。


こういう表情を見るのははじめてで、つい目を見張ってしまう。


「おまえが気にするようなことじゃない」

「……うん。だよね、ごめん、ずけずけと」

「そうじゃなくて……」

「え?」

「……いや。なんでもない」


ぽとりと沈黙が落ちる。

ぽとり、というより、ずしん、という感じ。


重たくて体が押しつぶされそうだ。

ついでに心も、つぶれそうだ。


どちらもなにもしゃべろうとしなかった。

でも、背を向けようともしなかった。


あたしたちは向きあったまま、それなのに視線をそらしあったまま、言葉を忘れたみたいに押し黙って、ただ冷たい空間のなかにいた。


苦しい。

この男とのあいだに生まれる沈黙をこんなにも苦痛に思ったこと、いままでに一度だってなかった。


「……あ」


声じゃないみたいな声が出た。

息を吐くのに失敗して、思わず喉が震えてしまったという感じの声。


寛人くんはゆっくり顔を上げて、こっちを見た。

久しぶりに、あたしが彼の世界のなかに存在していた。


「なんで無視してた?」


さっきまでの沈黙が嘘みたいに、いきなり、強い声。

どうしてこう、この男ははっきりモノを言うのかね。特に怒っているときね。


ああ、そうか。

もしかして、怒っているのかな、いまも。

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